フンザの夏祭りも終わり、もう思い残すことはなくなった。
9日間も滞在したカリマバードをあとにし、パキスタン北部の中心的な街ギルギットへと向かうことにした。
ところが、その移動の際にとんでもない出来事が起こってしまったのだった。
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ギルギットへのミニバス
カリマバードで仲良くしてくれた人たちにお別れを言い、カリマバードの隣のアリアバードという大きな村からバスに乗り込んだ。
バスといってもワゴン車のようなもの。
中はギュウギュウ詰めで、大きな荷物は屋根の上に乗せるからと言われ、ザックを預けた。
バスは川沿いの断崖の道を走る。
3時間ぐらいかかっただろうか、茶色い川がゴウゴウと流れるギルギットの街に到着した。
街の入口には土嚢を積んだバリケードがあり、銃で武装した兵士たち。
物々しい雰囲気で、フンザの平和~な感じとは大違いだ。
悪いニュース
バスがターミナルに到着しヤレヤレと降りたところ、運転手が困った顔で話かけてきた。
「キミの荷物がなくなっちゃったんだよ」と。
えっ!!
自分でも確認してみたけど、ないものはない。
消え失せたザックには私の生活用具が全て入っている。 幸いパスポートとお金は手元のショルダーバッグにあるけれど・・・。
真っ先に思いついたのは、川沿いのガタガタ道をずっと走っていたから、ロープが緩んでザックがバスの屋根から落っこちてしまったのじゃないかということ。
運転手にそう言うと、そうかもしれないから、今から来た道を戻って探そうという。
またバスに乗り込んで、道端に私のザックが落ちてないか必死に窓から探した。
1時間ぐらいもバスで来た道を戻っただろうか。
人っ子ひとりいない川の崖っぷちでバスを降り、はるか下を流れる川の辺りにザックがないか、運転手といっしょに見て回ってみた。
でもその時ふと、我に返った。
もしかして、私のザックは誰かに盗まれたのかもしれない。
もしかして、この運転手もグルなのかもしれない。
それなのにいつまでも騒ぎ立てていたら、「面倒くさいやつだ。川に突き落として、コイツごとなかったことにしてしまえ!」となってしまうかもしれない。
本当に、誰かに一突きされれば崖を真っ逆さま、だれにも知られずに殺されてしまいそうな場所だったのだ。
この運転手といても絶対に見つかることはないだろうと、ザック探しはあきらめることにした。
バスに再び乗り込み、田舎の集落にある警察署に寄って、紛失証明の書類を作ってもらった。
マディナホテル
ギルギットの街へ戻り、トボトボとマディナホテルという安宿にたどり着いた。
宿の人たちに事情を話すと、とても優しく対応してくれた。
個室に入って一人になると、いろんな思いが押し寄せてきた。
どうして今日カリマバードを出てきてしまったんだろう。どうしてあのバスに乗ってしまったんだろう。どうして荷物を屋根に乗せてしまったんだろう。
後悔してもしかたのないことだけど・・・。
ザックに入っていた衣類はまた買えばいい。
一番悔しいのは、10本以上もあった撮影ずみのカメラのフィルム(まだデジカメを使ってなかった)がなくなってしまったこと。
たくさんのお世話になった人たちに「写真、絶対送るからね」と約束してきたのに・・・。
気に入った景色を描き留めていたスケッチブックもなくなった。
お世話になった人からもらった手作りのお土産も。
こんな旅もう二度とできないのに・・・。
泣きたい気持ちだけど、泣いてもどうしようもない。
悔しさと不安が渦巻いて、ほとんど眠れない夜をすごしたのだった。